もうひとつのエール

かつて、ある女性画家から亡きご主人:M氏の「一年会」(一周忌)の集いの最後に、ピアノ演奏を…というご依頼を受け、奉奏させて頂いたことがありました。

大手化学品メーカー副社長、常任顧問を歴任され、ご葬儀は会社がその一切を取り仕切られた故、一年会は夫人の意向に重きを置いた形で…と、後輩の某国立大学副学長と共に偲ぶ会を発起されました。

また、化学の分野で協会や学会で重責を担い、幾つかの大学でも教鞭を執られていたので、長年苦楽を共にした同志、学者や教授となった当時の大学研究室の後輩や教え子など約100名の方々で、会場のバンケットルームはいっぱいになりました。

 

幾人かのご挨拶の後、お食事を共に頂き、再び所縁の深い方々のスピーチ。

どなたのお話からもM氏を心から慕い、いかに尊敬なさっているかが響いてきて、1度もお会いしたことの無い私でさえ、胸が熱くなりました。

生前お目にかかりたかった。

少しでも直接お話を伺いたかった…と強く思いました。

一般に挨拶やスピーチの中には、表面的、形式的、また退屈な時もありますが、この会では「もっと聞きたい」と感じるお話ばかり。

主人公の功績や人柄はもとより、話をされる方自身の人間的な魅力も大きいと実感する機会でもありました。

その中で、私の生徒さん達、特に学生達に紹介したいと思うものを後程抜粋してご紹介します。(もったいぶるようですが)

 

さて、錚々たるメンバーの中、氏と面識の無い私が何故お招き頂けたと言うと…

夫人は私のコンサートのお客様で同じ画家仲間のお誘いにより、私のリサイタル等に度々お越し下さるようになりました。

そして、元々、ご夫妻ともピアノが趣味で二人連弾で発表会にも出演するほどで、ショパンを愛奏されていたご主人にも「今度は一緒に行きましょう」と話されていたそうです。

しかし、病のため叶うことなく旅立たれてしまいました。ご夫妻にとって特別な存在だったピアノ…叶わなかった想いをこの機に託して下さいました。

 

「私の今一番好きなピアニストの演奏を、主人とご参会の皆様にプレゼントさせて頂きます」との夫人のお言葉。

事前に相談して選曲したショパンのノクターンとワルツを演奏致しました。

皆様、お聴き下さるマナーが飛びきり素晴しく、粛然たる雰囲気の中、とても熱心に耳を傾けて下さり、私も会のクライマックスの任を無事果たすことができました。

演奏中は髪一本落ちても分る程の静寂と張りつめた空気感。

そして、打って変って熱いアンコールの拍手。

数々のご縁を経て繋がった時空に深謝するばかりでした。

 

では、ここで先に綴ったように、スピーチの中から引用、掲載致します。

生前、大学の講義で初めに学生に向けて説かれたお話だそうです。

 

“大学の大切な役割”

1回限りの僅かな人生に自分を賭けて、打ち込んでみる目標を見つける事。

そして自分を生かすために必要な「教養」「物の考え方」「基本的な概念」「方法論」「課題の設定と解決法」「役に立つ知識と知恵」を身につけると共に、「今後の活動に必要なネットワークを構築すること」です。

情熱さえあれば何でもできるわけでもないが、情熱が無ければ何もできないのは確か。

世間から大切にされ、尊敬される学生になろう。

 

“自戒を込めて皆さんに一言”

①皆さんの目は輝いていますか? 未来を信じた良い顔をしていますか?

②個性と持ち味を生かして自分の役割と使命がイメージされていますか?選ばれた人は選ばれた事に責任を持たなければなりません。

③他人の評価や他人の目を気にし過ぎないようにして下さい。

④既成概念に囚われないで下さい。

⑤人のお世話ができるように、他人の立場に立って物が考えられるだけの「ゆとり」を持って下さい。

⑥できるだけ明るく振る舞って下さい。

⑦課題や問題を先送りにしないで下さい。

⑧命を大切にして下さい。

如何でしょうか?

学生達へのエールを私も大切にしたいと思います!